1.パニック発作
パニック障害とはパニック発作によって特徴づけられる疾患です。
パニック発作とは、典型的には呼吸困難感や動悸が突然に出現して、このまま自分は死んでしまうのではないか、という恐怖感を伴います。呼吸困難感とは呼吸ができていない感じですが、実際には呼吸はできており、かえって過呼吸に陥っていますので、空気中の酸素を吸収しすぎて、手足の痺れ感も出現したりします。そのため、過呼吸状態では口に袋を当てて、過剰な酸素の吸収を防ぐという方策も用いられます
パニック発作では呼吸困難感や動悸が出現することが多いのですが、人によっては、めまい、吐き気や嘔吐することに対する恐怖感であったりします。
このような状態はいてもたってもいられない強い焦燥感を伴い、じっとしていられなくなりますが、満員電車やエレベーターの中など、身動きできなかったり、直ちには外に出られない閉所にいた場合、焦燥感はさらに高まることになります。
パニック発作の場合、死ぬのではないか、という恐怖感を伴っていますので、救急車が呼ばれることも少なくありません。ところが多くの場合、病院についた頃には発作はおさまっています。通常、発作は30分程度しか続きません。
そして、病院で内科的な検査などをしても特別な異常は発見されません。
これがパニック発作の概略ですが、パニック発作は大きなストレスが加わった時や体調不良時に起きるとは限りません。何でもない健康時、とても元気な時にも起きる可能性があるのです。
2. 予期不安
1回目の発作が起きただけですと、了解困難な意味不明な体験として時とともに忘却されて行きますが、2回目の発作が起きた後は、あの発作がもう一度起きたらどうしようか、という強い不安が起こるようになります。この、発作を予期することで生じる不安を「予期不安」と言います。
「予期不安」が起きることで、パニック発作自体、起こりやすくなります。たいていの場合、パニック発作が起きやすい状況は人によって決まっています。その多くは、すぐにはその場から離れられない状況です。電車やバスの中、高速道を走っている車の中、エレベーターの中、風呂に入っている時、美容院でシャンプーしている時、歯科治療を受けている時、商談などで人と会っている時、会議をしている時、人前で話をしている時、などの状況が多いのです。
また、仕事などでテンションがかなり高まった後に、そのテンションが下がる時にも起きやすく、うつ病を発症して活動性や気分状態が低下するさなかにも起きることが多々あります。
3.薬物療法
治療はSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や抗不安薬の投与で行います。
多くの場合、これらの薬を常用しながら、パニック発作が起こりやすい状況に入っていく1時間前くらいに、抗不安薬を頓服的に使用することで発作を予防することができます。
パニック障害の治療の場合、発作が起きれば起こるほど予期不安が高まって発作が起きやすくなる悪循環過程が存在するので、発作を予防することがとても大切になります。人によって発作が起こりやすい状況が固定していますので、そのような状況に入る前に抗不安薬をあらかじめ服用することがとても重要となります。躊躇しないで必要にして十分な量の頓服薬を活用しましょう。
4.続発症
パニック発作は予防の難しい症状ではありませんが、パニック発作が起きた時の強い恐怖に彩られた体験を忘れることはできませんので、パニック発作が起きやすい状況を避けようとする気持ちが起こります。そのため、交通機関が利用できなくなったり、生活範囲がとても狭まったり、活動が制約されてしまったりするため、閉塞感が高まり、そのためにうつ病を発症することもあります。
5.パニック障害治療の難しさ
パニック障害は精神疾患の中では重い病気ではなく、十分に状態をコントロールすることも可能な病気ですが、いつ治った、と言いにくい病気です。この点がこの病気の特徴でもあり、病気と向き合う上で難しい点です。先ほど、パニック発作は健康な時にでも起こる可能性があると述べました。これは何を意味しているかといえば、いかに発作が遠ざかっていても、すなわち、発作もなく元気に活動できていたとしても、次の瞬間、再び発作が起きる可能性があるわけです。このような特徴があるため、いつ治った、とも言いづらく、ご本人としてもあの発作がいつ起きるかわからない、という怯えた気持ちを心の底に抱きながら生活することになります。この点がパニック障害という疾患と向き合い心構えを作る上で、一番難しい点でしょう。