単極性うつ病は存在する? その1

1.単極性うつ病は存在しない?

精神医学の歴史上長らくの間、うつ病相しか出現しない単極性うつ病の存在が疑われることはまずありませんでした。そして、単極性うつ病と対極を成す病状が躁うつ病(双極性障害)とされていました。

しかし1980年頃から、単極性うつ病は存在せず、すべては双極性障害であり、単極性うつ病とみなされている病状も実は双極性の要素を孕んでおり、その双極性の要素はいまだ顕在化されていないだけである、という見方が提示されるようになってきました。

現時点ではどうでしょうか?正確なことはわかりませんが、精神科に携わる医者・研究者の半数は後者の見方をしているのではないでしょうか。

2. 単極性うつ病と見誤りがちな病状


単極性うつ病の存在について論じる前に、単極性うつ病と見誤りがちな病状を排除しておきましょう。この手続きを踏んでおかなければ、純粋な単極性うつ病の存在の検討はできないからです。

まず、神経衰弱(状態)は、意欲が出ず、活動性が低下し、気分も晴れず、食欲なく、疲れやすく実際疲れを自覚していることも多く、不眠も出現することなどから、単極性うつ病と診断される危険性のある病気ですが、神経衰弱(状態)は気分障害ではありませんので、ここではこれ以上の言及は控えます。

単極性うつ病と見誤る可能性の高い気分障害は以下のようなものです。グラフを書いて説明しましょう。

図1


図1のグラフの縦軸方向は気分ないしは活動性です(以下、グラフの説明において、気分と書いている時は「気分ないしは活動性」と読み取ってください)。原点より上方向が明るい気分、下方向が暗い気分で、原点は気分のちょうど良い状態(高くも低くもない状態)を示し、横軸の右方向に時間が経過するとします。グラフ中の数値に意味はありませんので無視してください。

このグラフは横軸が正弦波のちょうど真ん中に位置していますので、気分の明るい状態と暗い状態とが半々になっており、双極的な気分の揺れが生じていることがわかりやすい例です。

さて、ここで、横軸が上に移動した図2の場合はどうなるでしょうか?

図2


明るい気分の状態は少なく、暗い気分の状態の方が多くの期間を占めることになります。双極的な気分の揺れがあることに変わりはありませんが、明るい気分の状態は期間が短いため見逃されやすくなり、単極性のうつ病と見誤られがちとなります。

図3


さらには、横軸が正弦波の上端よりも上に位置した図3の場合、どの時期をとっても気分の暗い状態であり、気分の明るい状態は皆無で、この状態をもって、双極性と判断するのは容易なことではなく、通常は単極性うつ病とみなされるでしょう。

しかし、気分は暗い中でも波があるわけで、気分が比較的ましな時期と一層暗くなる時期があること、そしてその変化にきっかけらしい事柄が見当たらないことなどから、この気分の揺れは自律的な変動であり、双極性と判断するべきなのです。

単極性うつ病の存在を検討するに際しては、まずはこのような、ほぼうつ病相ばかりで動いているような双極的な気分変動を除外することが重要なのです。




単極性うつ病は存在する?その2